8月29日 まつりだワッショイ
(カテゴリ:獣医師の雑談) (投稿日:2017年08月29日)
こんにちは!花火大好きの獣医師です!!
夏もそろそろ終わりに近づいているようで、暑さで寝苦しい夜も減ってきました。
ブログを読んでくださっている皆さま、夏祭りには出かけられましたか?
出店の匂いとか、夕方の涼風とか、浴衣のおねえさんたちとか、
何とも言えない日本の良さを感じられる、素敵な風習ですよね。
残念ですが、今日のお祭りは楽しくないやつですよ!
先日、トクモンキー全頭について糞便検査をすると
そうそうたる結果でした。
だいたいみんなユルめのうんち。
加えて、細菌とか原虫とか寄生虫とか内容は様々ですが、
ほぼ全ての個体が、下痢を起こしそうな何かしらのモノを持っていました。
ですので、みんなにお薬を飲ませることになりました。
ところがです。
このうちの「原虫」を退治するお薬が、
実はときわ動物園でも最も苦い薬。
本来は人間用のお薬で、
あまりに苦いので、糖衣で覆われたものが売られているのですが
こんな錠剤をコロっとサルに与えたところで、決して飲んでくれません。
どうするかといえば...
乳鉢に入れて、
乳棒でトントン叩いて砕いて、
さらに砕いて、
サラサラの粉にしてから、ようやく餌に混ぜて与えることができます。
獣医師も飼育員も、薬を動物に与える前にはだいたい味見をしますが
この薬の苦さたるや、すさまじいもので
「舌が震えるほど苦い」とはまさにこのこと。
「良薬口に苦し」とはこの薬のためにある言葉。
と思われるほどです。
上記の粉をほんの少し舌に乗せるやいなや、速やかに不快な苦さが口全体に広がります。
10分経ってもまだ苦いです。本当にすさまじいです。
そしてこの薬、朝・夕の一日2回投与を10日間続けるのが
標準のスケジュールです。
薬を与えるトクモンキーは14頭なので、
14頭×2回×10日間=280袋!!
各個体の体重に合わせた量を電子天秤で量り取って、
ひたすら袋詰め。お薬の分包はひと仕事となります。
このような錠剤の破砕から分包までの一連の状況を、
わたしは心の中で「お祭り」と呼んでいます。
ついでですが、エアコンの風が当たると電子天秤の数字が振れてしまうので
お祭りの最中はクーラーを入れられません!暑い!!
14頭、3日分の薬を並べるとこんな感じ。
繰り返しになりますが、1頭の1回分をわたしが口に入れられたら泣く自信があります。
泣くレベルで苦いです。
同じ成分で注射用の薬もあるようなのですが
動物園動物では、注射はそうそう簡単にできません。
(あと「こんなの、注射されてもどうせ苦いんでしょ」などと
疑心暗鬼を生んでしまいます)
「楽しくない」と冒頭に書いたのは誇張表現で、
わたしは叩いて包んでの単純作業を充分楽しめるタチの人間であり
投薬で糞便の状態が改善するのを見るのも嬉しいものですが、
この苦さだけはどうにもいただけません。
どうやら動物は人間よりも苦みにかなり強いっぽい...
とはいえ、他にいい方法がないものかなー...と思いながら
いつも調剤しているのです。
分包の最中、ありが机の上をウロウロしていました。
もしかして、砕けて落ちている糖衣を持って帰って食べるつもりかな?
たぶん思ってるほど甘くないよ?(とびきり苦いよ?)
思えば、「この薬は苦いから」とわざわざ糖衣で覆ってくれた
心優しい製薬会社の人がいるにもかかわらず、
わたしはその糖衣ごと錠剤を打ち砕いて丹念にすり潰し、
できるだけ細かい=表面積が大きい=苦く感じる 状態にして
サルに与えるよう指示するわけです。
サルに、飼育員に、そして製薬会社の人。
すべての関係者に対してギルティなきもちになります。
なんなら錠剤にする前の粉の状態で売ってほしいものですが、
あの苦さなので、人間での需要は全くないのでしょうね。
そして以前のブログでも書きましたが、
本当のお祭りはこの後です。
このとびきり苦い薬を14頭すべてに与えるのは、他ならぬ飼育員!
あんなものを一体どうやって飲ませているのかは怖くて聞けないですが、
トクモンキー舎で暴動が起きていないことを祈るばかりです。
担当:田丸