10月20日 続・檻に入ってもらっちゃおう!
(カテゴリ:飼育日記) (投稿日:2016年10月20日)
6月のブログ「檻に入ってもらっちゃおう!」お読みいただいていますでしょうか?
今日はその続編ですので、知らないよ~という方、忘れちゃったな~という方はぜひご一読ください。
さて、みなさん読みました?準備はいいですか?
例によって続編も長めですが、気合いを入れてまいりましょう!
作戦始動から4ヶ月...当然もう檻に入ってもらっちゃってるだろう...と思いますよね?
わたしもそう思っていました...
しかし、わたしがちょっぴりサボってしまい、実はまだ......
トレーニングはのんびりペースですが、リンダとソフィーの歩みはわたしにとって感動もの。
飼育員はポンコツですが、彼女たちすごいんですよ~!というお話です。
前回のブログでは、本格的にトレーニングをはじめるまでの下準備として檻に馴れてもらうところをご紹介しました。
今回は、トレーニングの順序と実際の2頭の進み具合をくわしくお話します。
まず、このトレーニングの最終目標は、『檻に入ってもらい、扉を閉め、カギをかけ、そのまま檻を動かせるようにする』。
ハヌマンラングールは、特定動物といって法律でその管理方法が決められており、届け出ている飼育施設の外に運び出すには許可申請が必要です。
(なんだかコワイことが書かれていますが、ハヌマンラングールだけではなく、霊長類の大部分がこの「特定動物」に指定されています。一定の基準ではありますが、その動物の凶暴性を示すものではありません)
トレーニングの度にその申請をするのはとても大変なので、動物が入った檻を持ち上げ、台車にのせて運び出す直前のところまで練習しようと考えています。
え?そこまで練習しなくても、扉をしめちゃえばこっちのもんじゃないの?
...と、思いませんか?
そう、扉を閉めてしまえば、動物が檻の外に出てしまうことはありません。
しかし、
もし、カギをかけるカチャンという音がすごく怖かったら?
もし、入った檻を持ち上げられるのがすごく怖かったら?
もし、台車に乗せられて揺れるのがすごく怖かったら?
さらにはその後、治療など、動物にとってより怖いであろうこと、びっくりするであろうことが待っています。
少なからずいやな思いをするはず。
そこで、「すごく怖い!いや~!檻に入ったらすっごく怖いことがあった!」という記憶が強く残ってしまったら、せっかく時間をかけて檻に入ってもらえるようにトレーニングをしても、またトレーニング前の"檻=怖いもの"という印象がもどってきて、以前よりも檻に入ってもらうのが難しくなってしまいます。
いやなこと、怖いことっていつまでも覚えていますしね。
わたしは高いところは好きで、木登りも得意なほうですが、ジェットコースターは大の苦手。
最近は慣れましたが、飛行機の離陸も苦手。大きく揺れるわけではありませんが、どこにつかまったらいいのかわからない、心もとない気持ちになります。
唐突にわたしの苦手をカミングアウトしましたが、怖いものってひとそれぞれですよね。
だれが、なにが苦手でなににトラウマがあってなにをされたらいやなのか、言葉が話せる人間同士だって言葉で伝えなければわかりません。
でもわたしたち人間は言葉で伝えあえば、いやなことを回避したり、我慢したり、心構えをすることができますが、動物たちが相手ではそうもいきません。
だから、細かく細かく段階を踏んで準備をすることにしました。
運び出す直前に進むまでにはもっとたくさんのプロセスがあるので 今今クリアしている「檻に入ってもらっちゃうところまで」のお話ですが、檻になれてもらって扉を完全に閉めるまでを、こんなふうに段階に分けてみました。
①扉全開で、中にはエサをまき、人は近くにいない状態
②扉全開で、中にはエサをまき、人が檻のそばにいる状態
③扉全開で、人が檻のそばにいる状態
④扉全開で、檻のそばにいる飼育員が扉を右手でもっている状態
⑤扉が3cm閉まった状態
⑥扉が10cm閉まった状態
⑦扉が15cm閉まった状態
⑧扉が半分閉まった状態
⑨扉が半分+5cm閉まった状態
⑩扉が半分+5㎝閉まった状態で檻に入ってもらったあと、扉の金属音がする
⑪扉が半分+5㎝閉まった状態で檻に入ってもらったあと、扉をすべて閉める
それぞれ、①で落ち着いて檻に入っていられるようになったら、②に進む...
というふうに、檻に入ってもらっちゃおう作戦は進みました。
⑨「扉を半分+5cm閉めた檻に入ってもらう」でのソフィーの様子はこんなかんじです。
写真右側からソフィーがやってきます。
部屋の中がせまいので、わたしはみなさんにおしりを向けた形での出演、ご容赦ください...
扉が半分以上閉まっている状態なので、ぐっと姿勢を低くして「ほふく前進」のようなかっこうでソフィー登場。
ふう。胸まで入ったよー
体をぐーんとのばして...
最後はひょいっと軽やかに。
飼育員のほうを向くと、ハヌマンラングールのチャームポイント・長ーいしっぽもすっきりおさまります。
この後ゆっくり扉を閉めて、檻に入ってもらっちゃおう作戦の、檻に入ってもらっちゃうまでが完成。(ややこしいですが、この後「運んじゃおう」編もありますので...)
「檻を◯cm閉める」なんて、我ながら細かくない?そこまで細かくしなくても!とはじめは思ったのですが、彼女たちが神経質な性格なのは知っていたので、念のため細かくして挑戦。
すると、リンダもソフィーもどうやら同じように苦手な段階があるようでした。
こちらをごらんください!
トレーニングの進み具合を表した、なにやらわかりにくい自己流グラフです。
縦軸「トレーニング段階」...数字は先ほどの①~⑪ それぞれの状態で落ち着いて檻に入ってくれるようになったらその数字のところに点をうちます。
横軸「セッション回数」...1セッション=1分間 その段階をクリアするまでにどのくらいの時間がかかったかを示しています。リンダはすでに100分以上クレートトレーニングに取り組んでくれていることになります(もちろん連続100分!ではありません、リンダの場合、この4か月のうち38日間に分けてトレーニングを実施しました)。
線がまっすぐ横につながればつながるほど、時間がかかった、つまり「苦手なこと」というわけです。
これを踏まえてもう一度見てみると、2頭の苦手なことが見えてきませんか?
リンダは、①、④、⑧、
ソフィーは⑧、⑩にたどり着くまで特に時間がかかったようです。
グラフの形はそれぞれ少しちがうようですが、2頭に共通する苦手が「⑧扉が半分閉まった状態」です。
どちらもその前段階の「⑦扉が15cm閉まった状態」は比較的らくらくとクリアしたようだったのですが...
このちがいはなんなのでしょう?
⑦扉が15cm閉まった状態
⑧扉が半分閉まった状態
...大きなちがいのような...
...そうでもないような...
でも、リンダとソフィーにとっては大きなちがいで、苦手なことだったんですね。
そして、このグラフ、リンダもソフィーも最大値の「⑪~扉をすべて閉める」には届いていません。
つまりまだ完全に檻に入ってもらえるようにはなっていないのです...
でもあと一息!ですので、もう少しの間応援してくださいね!
トレーニングを行うまでは、他のサルたちのために使う檻であっても一目見るだけで大騒ぎするほど怖がっていた檻に、自分からすすんで入ってくれるようになったのは大きな変化です。
少しずつ馴れてもらえるように練習していけば、動物たちはいろいろなことができるし、動物たちのためにできることはどんどん広がっていくのだということを実感させてもらいました。
完全に檻に入ってもらえるようになったら、その動画をときわ公園の公式Facebookにアップしますね!
そして最後にひとこと。
「飼育員は動物の気持ちがわかるんだね~!」なんてお客様から声をかけていただき、エヘヘ~と笑って流してしまうことがよくあるのですが、少なくともわたしには動物の気持ちはわかりません。こうかな?ちがうかな?と考えることしかできません。でも、だからこそしっかり観察をして、できるだけ感情的にならずに動物たちと向き合っていくことがとても大切です。自分の思い込みでなく、動物たちのことを考えてあげられるようになりたいな!と思います!
ぜひみなさんも、動物たちの動きをよーく観察して、どんなことを考えているのか想像してみてくださいね~
そしてぜひぜひ飼育員にも教えてください(^^)
担当:かわで