8月23日 こっそり冷え冷え
(カテゴリ:飼育日記) (投稿日:2016年08月23日)
毎日暑いですね! 宇部市は梅雨明けから約1ヶ月の間、ずーっと晴れつづき。 先日ようやっと一雨きたぞ!と思ったのも束の間、再び猛暑の日々です。 しかし、夏バテしているわけにはいきません!
わたしたち飼育員は、あの手この手で動物たちの暑さ対策に取り組んでいます。 今日はその一つ、『氷』について!暑い時、食べたくなるのはやっぱり冷たいもの。
アイスクリーム!かき氷!
というわけで、動物たちにも氷をプレゼント。
まずは普通の製氷器で、小さな氷をつくってみました。
リンゴと大根アイス、セロリの葉っぱにすこしの食塩を混ぜた熱中症対策アイスなど。
冷たさにびっくりしながらも、シャリシャリとかじりついて、なかなかおいしそうです。
しかし...
その冷たさゆえ、地面に落としてしまう個体が続出。
せっかくの氷には土が。
ふだんから虫やミミズ、野草など土のついた食物も食べているサルたちではありますが、衛生面を考えると、できればきれいな状態の氷に触れてほしいものです。
どうしたら汚さずに冷え冷えになってもらえるかな~と考えてたどりついたのが、
国内外の動物園で実践されている、「氷つるしちゃえ作戦」!(※他園で使われている呼称ではありません。わたしのネーミングセンスのなさには触れないでください!)
氷をつくる時に、チェーンやロープを一緒に凍らせてしまうという、シンプルですが 汚れないし、揺れる氷で遊べるし、とてもいいアイデア!
まずは試しにシンプルなバケツアイスをつくってみました!
果物入りの特大です!
シシオザルの展示場に吊るし、ガッツを放飼すると...
早速氷のもとへ!
触って冷たさに驚いたり、見えているのに届かない果物にやきもきしたり、かじりついてみたり...
とってもいい反応!
これで暑さ対策も、エンリッチメントもばっちり!と満足げにながめていると、背後から係長の声。
「う~ん...これはちょっと...さすがにねえ...だめかな」
なんと!?
こんなに楽しそうなのに!?
...でも、そうなんです、だめなんです。
ときわ動物園は、ご来園いただいた方はご存じのとおり、たくさんの木や草、岩などを配置し人工物をできるだけ見せないようにし、「生息環境展示」という展示方法を採用しています。
動物たちの生息環境を再現することで動物の本来の行動を引き出し、たくさんの人に彼らの魅力を伝え、魅力的な動物たちのくらす生息地の保全や地球環境について考えていただくきっかけをつくることが大きな目的。
果物の詰まった氷は、もちろん自然環境にはありませんし、それにかじりつくのは野生動物の本来の行動ではありません。
というわけで、動物が楽しそうでも、これはNG。
楽しそうな姿はわたしの胸の中にしまっておくこととなりました。
ざんねーん!とっても悔しい!
まあまあ、ちょっと汚れるけど、今まで通り小さな氷で水分補給・暑さ対策でいいんじゃない?
という気もちょっぴりしましたが、一度気づいてしまったからには そういうわけにはいきません。
はじめにお話したように、土でどろどろになった氷を食べさせるのは気が引けます。
また、小さな氷はあっという間にとけてしまうので、こまめに与える必要がありそうです。
なにしろこの猛暑ですから、強いサルばかりが独占してしまって弱いサルが冷え冷えになれないのではないかという心配も。
汚れなくて...
みんなが冷え冷えになれて...
お客様からは氷が見えなくて...
でもサルは見える...
そんな都合のいい方法...
ありました~!!!
名付けて、
『こっそり冷え冷え大作戦』!
その1!
見た目ワイルド作戦!
チェーンを入れたバケツで氷をつくる方法はそのまま、倒木も凍らせちゃいます。
この日はトマトも入れてみました。
さらにこれを、トクモンキー展示場の倒木の上にチェーンでくくります。
うーん、ワイルド。
後ろから見るとこんなかんじですが、
お客様のほうからは見えません!
トクモンキーたちを放飼してみると...
氷に気づいて集まってきました。
お客様のほうからはばっちりサルたちだけ見えます!
はじめは一番強いコロ(♂)がなめたりかじったりしていましたが、
30分後、
1時間後、
どうやらすべての個体が冷え冷えを楽しんでいました!
高いところがだいすきなサルたちの欲求も満たしつつ、チェーンと倒木がからんでいるので半分以上溶けても氷が地面に落ちず、衛生面もクリア!
お客様にはばれないように、こっそり冷え冷え!
その2!
冷凍ジャックフルーツ作戦!
今度はちょっと斬新です。
シシオザル展示場に以前から設置しているジャックフルーツのフィーダー。
本物そっくりですが 実は内側が空洞になっていて、ふだんは特製のグリーンスムージーを
入れて使っています。
このフィーダーのうちの一つが少し変わったつくりになっています。
手をつっこむ穴がないかわりにフタがついていて、おしりのところに小さな穴が開いています。液体がしたたるしくみ。
おそらく「熟れたジャックフルーツから滴る汁をなめるシシオザル...なんて野生!」という光景をイメージして作っていただいたものなのですが、当のシシオザルたちは、手をつっこめないこのフィーダーがお気に召さないようで、閉園後までスムージーがそのまま残っているという事態がつづき、すっかりお飾りと化していました。
今回はこのフィーダーの中に水を入れ、まるごと凍らせてみました!
強化プラスチック製のフィーダー、凍らせてもキンキン!とはならず、「ひんやり」という言葉がぴったりの冷え方。
体をつけて冷え冷えになってくれるのでは?
との期待をこめて、いざ設置!
初日は冷え冷えに気づかないのか、あまり触っていないようでしたが、2日目にはこんなかんじに。
冷え冷えを知ってか知らずか、体を寄せる こどものミヤ。
穴から落ちる冷たい水滴をなめる お母さんのヒロ。
この様子を見ているお客様は、2頭がまさか冷え冷えしているなんて思ってもみないことでしょう。
しかし、実は冷え冷えしているんです。
これぞ「こっそり冷え冷え大作戦」!
生息環境展示は、野生動物のくらしを再現して見せる展示方法ですが、もちろん動物たちの生活をまるごと再現できるわけではありません。
広さや高さはもちろん、気温や水辺、食べもの、外敵や他の生物との関わりなどなどなどなど...ここには書き表せないほど、ときわ動物園の飼育環境と 野生動物の生息環境はまったくちがいます。
再現できているのは、かれらのくらしのほんの一部分にすぎないのだろうと思います。
でも、人の手が加わる動物園だからこそ つくりだせる環境の変化もたくさんあるはず。
生息環境展示の中で、本当の生息地の環境では体験することができない楽しみを動物たちに見つけてもらえるよう、これからもいろいろな「作戦」を練っていきますよ~!
氷にかじりついたり、しがみついたりして遊ぶ動物たちをご覧いただけないのはすこし残念な気もしますが...
うだる暑さの中、意外にも元気そうに活動しているのは、実は冷え冷えを楽しんでいるからかもしれません。
動物たちを観察しながら「こっそり冷え冷え」を探してみてくださいね!
ご自身の冷え冷え作戦も忘れずに!
担当:かわで