7月25日 家族になれますように
(カテゴリ:飼育日記) (投稿日:2016年07月25日)
もうだいぶ過ぎてしまいましたが...
7月7日は七夕でした。
みなさんはお願いごと、しましたか?
「動物たちが健康でしあわせにくらせますように」というのは、七夕に限らずすべての飼育員の願いですが、ハヌマンラングール担当のわたしにとって今年の七夕は特別!
昨年生まれたサトの1才の誕生日だったんです!
お姉ちゃん・タラの誕生日にはケーキをつくってお祝いしましたが、今回はなし...
もちろん、サトがきらいなわけでも、忘れていたわけでもなく、実は大大大イベントがあったんです!
タラが生まれて人工哺育になった2年前からの願いごと、「ハヌマンラングールが家族になれますように」。
今年の七夕には、この夢の実現のための大きな一歩『同居訓練』を行い、現在とても順調にすすんでいます!
今回のブログは、同居訓練までの道のりと当日の様子についてお話します。
スクロールバーを見てお気づきの方も多いかと思いますが、今日のブログ...長いです...
でもきっと、ハヌマンラングールを応援したくなってもらえると思うので、最後までお読みいただけるとうれしいです!
現在ときわ動物園でくらすハヌマンラングールは4頭、すべてメスです。
うまく育てることはできなかったけれど、こども思いで気の強いリンダ。
こどもたちには無関心?いまいちなにを考えているのか読めないリンダの姉・ソフィー。
そしてリンダとサミー(現在は日本モンキーセンターでくらしています)のこどもたち、
好奇心旺盛な2才児・タラと、その妹・サト。
今までは、リンダとソフィーは外の展示場、タラとサトは室内展示場にいて、それぞれ別にみなさんにお会いしてきました。
でも、4頭は家族です。
そしてハヌマンラングールは、本来大きな群れをつくってくらす動物。
家族が一緒にくらさなくていいわけがありません!
とくに、小さなこどもたちにとって、これは大問題です。
人も、小さなこどものそばにはお母さんやお父さん、おじいちゃんおばあちゃん、おじさんおばさん、保護者の方や親戚だけでなく、友達や先生など、まわりにはたくさんの人がいて、一緒にくらし、接するなかで人として成長していきますよね。
ハヌマンラングールだってそれは同じです。
タラやサトのように人が育てた動物は、人としか接触のない期間が長くなればなるほど、人を仲間だと思ってしまうのか、本来一緒にくらす動物の仲間にもどるのが難しくなってしまいます。
飼育員が動物を抱いてミルクを与える様子はほほえましく、かわいい赤ちゃんを近くで見られるのでお客様にはとても喜んでいただけます。
しかし、これも人に置き換えて考えてみると、ぞっとする事態。
お母さんじゃない、どころか、人ではない動物に育てられた赤ちゃん...
生まれたばかりの小さな赤ちゃんが、見た目はもちろん、行動も、コミュニケーションの方法も、まったくちがう動物に育てられたら?...仮に身体的には健康に育ったとしても、人間らしく育つことはとても難しいことだと思います。
ちょっと極端な例ですが、人工哺育はそういうことだと思って、これまで3頭のサルの人工哺育を担当してきました。
もちろん赤ちゃんはかわいいし、愛着もわきますが、わたしたち飼育員は動物たちの本当のお母さんや仲間になることはできません。
命をまもるために人工哺育にきりかえる判断をしましたが、
ハヌマンラングールらしいハヌマンラングールに育ってほしい!
ハヌマンラングールをハヌマンラングールらしく飼育したい!
ハヌマンラングールらしいハヌマンラングールをお客様に見ていただきたい!
だから、少しでも早く4頭が一緒にくらせるようにと願ってきたのです。
こどもたちは2頭とも、生まれたその日から人工哺育で育ってきましたが、すぐにおとなとのお見合いをはじめ、はじめから一緒にくらすことをめざして飼育してきました。
お見合いをはじめた頃は、こどもに対し激しく威嚇したり体をつかもうとしたり、大興奮だったリンダも、すこーーーーーしずつではありましたが、反応がおだやかに。
そして、はじめは怖がっていたこどもたちも、すこーーーーーしずつではありましたが、おとなたちを気にするように。
タラと比べるとなかなかおとなとの距離が縮まらなかったサトも、離乳(それまでは飼育員が毎日ミルクを与えていたため人の気配に強く反応し、サルをこわがる様子でした)をむかえると徐々に人から離れるようになり、これなら同居訓練をしてもいいのでは?という状態になりました。
(すでにだいぶ長くなっておりますが、ここから7月7日のお話、いきます!)
『同居訓練』...「訓練」なんて言われると、なんとなくかまえてしまいますが、特別なことをするわけではありません。
こどもたちのいる展示場に、おとなたちを放ちます。
そして見守る。
それだけです。
すると、
展示場に出たリンダとソフィーは、すぐさまサトを追いかけはじめました。
だめだ!サトが危ない!と焦りましたが、なんとか逃げているのでもう少し見守ってみることに。
すると、しばらくしてソフィーがまたサトを追いかけていきました。
なかなかサトの姿が見えず声もないので、そっと回り込んで様子をうかがうと...
つ...つかまってる!!!?
ちがいました、だっこです!
ソフィーがサトをしっかりと胸に抱いていました。
ここまで読んでお忘れの方もいらっしゃるかもしれませんが、ソフィーはサトの母親ではなく、叔母さんにあたる個体。
でも、抱いてます。
そしてサトもおっかなびっくりながら、しっかりとしがみついています。
なにが起きたのかととても驚きましたが、実は野生個体や海外の動物園のハヌマンラングールでも同様の行動がみられています。
母系の群れをつくるハヌマンラングールは、母親以外のメスたちが代わる代わるこどもを抱いてみんなで子育てをするのです(この行動は「アロマザリング(allomothering)」と呼ばれ、他の種類の動物でも複数確認されています)。
しかし、ソフィーはタラとサトが生まれた時も、お見合いの時も、こどもたちを見たり近づいたりすることはほとんどなく、まったく興味がないような素振りだったので、まさかアロマザリング行動をとるとは思いもしませんでした。
なにはともあれ!
ソフィーのこの行動によって、それまでそわそわと落ち着かなかった4頭が落ち着いて同じ空間に。
とてもとても感動しました。
奥から、サト、リンダ、サトを抱くソフィー。
その後はサトが必死に逃げていたので、ソフィーがサトを抱く様子が見られたのはこの一度だけですが、現在は日中に展示場でのみ同居訓練を行っています。
はじめのうち、サトはおとなから逃げ回って、上の写真のようにネット上部にしがみついていることが多かったのですが、
最近はこんなふうに近くですごす様子もみられ、日に日に落ち着いてきているようです。
もう少ししたら、夜も寝室の中で同居訓練を行い、24時間の同居をはじめる予定です。
しばらくの間は、天候や動物の体調などにより展示場に出る個体を変えていますので、ご理解ご協力をお願いいたします。
2頭のこどもたちの人工哺育を担当しながら、この子たちはどうなってしまうんだろうかと不安にかられたことは数え切れないほどありました。まだ気が抜けませんが、とりあえずおだやかにすごす4頭の姿に、とてもほっとしています。
まだ「家族」とよべるようなコミュニケーションや一体感はありませんが、4頭の距離は縮まっているようです。
立派な家族(群れ)になれるよう、一緒に見守っていきましょう!
担当:かわで