11月2日 わたしの子育て
(カテゴリ:飼育日記) (投稿日:2015年11月02日)
ときわ動物園では、今年もたくさんの動物が繁殖しました。
残念ながら亡くなった個体もいますが、8種17頭の赤ちゃんたちがすくすくと成長しています。
サルの赤ちゃんや子育ての様子はほかの飼育員のブログでも何度か紹介されていますが、子育ての方法やその取り組み方は、おなじ霊長類といえども種類や個体によって本当にさまざまです。
今日のブログでは、彼らとおなじ霊長類、霊長目ヒト科のわたしの子育て方法についてお話しようと思います。
といっても、24歳未婚、出産経験なしのわたしが育てているのはサルの赤ちゃん。
いろいろな理由でお母さんが育てることができなかった赤ちゃんを、人がかわりにミルクをあげて育てる人工哺育を行っています。
今日のブログは長いですよ~!
(...川出の時はいつも長いような...)
今人工哺育を行っているのは、ハヌマンラングールのサト(♀)。
まもなく生後4か月です。
最近はとても活発でいろいろなものを口にするようになり、たのもしく感じています。
そして昨年は、サトの姉にあたるタラ。
タラはもうとっくにミルクは卒業し、一日に1㎏以上のエサを平らげる育ち盛り。
よくサトとは別種と思われる方も多いようですが、生まれた時はこんな顔。
そしてだんだん色が変わり...
さらに変わり...
こんな顔に。
驚くなかれ、上の写真3枚はすべてタラですよ!
1才半をすぎた今では、もうすっかりおとなと同じ配色。
でもまだまだ小さく、体重は2.7㎏ほどです。
(おとなのハヌマンラングールはメスでも10kg以上になります)
実はタラ、とても手のかかる個体でした。
通常、サルの赤ちゃんは生後2~3か月ほどでミルク以外のものを食べるようになり少しずつ離乳していくのですが、タラは生後5か月半までほぼまったく何も食べず、ミルクばかりの赤ちゃんライフを送っていたんです。
もう、はげるかと思うくらい悩みましたが、こちらの心配をよそにどんどん体重は増え、生後5か月半をすぎたころ急に食べはじめ、そこからは大きな問題もなく大きくなってくれています。
わたしがはげることもありませんでした。
まわりの子と比べて落ち込んだり悩んだり、人間のお母さんもこんなかんじかなあ...と憂えてみたり。
それから一昨年、わたしにとってはじめての人工哺育はボンネットモンキーのヤスコ(♀)でした。
2時間おきにミルクを与える、
体重をはかる、
ミルクの量や回数を調節する、
筋力不足にならないように運動させる。
何から何まではじめてで、本当にたくさんのことを教わりました。
こどもを育てながらお母さんも成長する、人間のお母さんもこんなかんじかなあ...とまたまた憂えてみたり。
ヤスコは1才の時に無事に群れに入り、現在はボンネットモンキーの大所帯の一員として日々を過ごしています。
きゃー、写真ぼけぼけ!すみません!
ボンネットモンキーは担当ではないので、なかなかゆっくりと観察する時間はありませんが、しっかり元気に育ってくれている姿を見ると本当にうれしいです。
3頭のサルの代理母を経験し、1頭1頭ちがう赤ちゃんたちに翻弄されまくりですが、わたしの子育てのモットーは、
"かならず仲間のところに戻す!"
"サルの子育てはサルに習え!"
人工哺育で育った動物は、動物同士の社会性が育ちにくく、仲間とうまくコミュニケーションがとれずに群れに戻ることが難しくなります。
群れでくらす動物が、人工哺育で育ったためにひとりぼっちでさみしい思いをさせてしまうのは本当に残念で、動物たちに申し訳ないことだと思っています。
群れに戻すのは難しいけれど、きっとできないことではないはず。
仲間をつくってくらす動物には、かならず一緒にくらす仲間をつくってあげる。
当たり前のことですが、いつもそのゴールに向かって考えて悩んで接しています。
それから、サルのお母さんたちをよーく見て勉強します。
サルの赤ちゃんは生まれてすぐに自力でお母さんにしがみつくたくましさを持っています。
そしてお母さんは赤ちゃんがいてもお構いなしに、走る!跳ぶ!木に登る!
平気で雨にも濡れちゃう!
パワフルな子育てによって、赤ちゃんたちは腕や足の力を鍛え、サルとしての動きを身に着けていきます。
そこで、わたしは基本的にいつも赤ちゃんを衣服につかまらせ、できるだけ赤ちゃんの存在を気にせずに過ごします。
赤ちゃんを抱いたまま毎日木に登っていたことも。
ときわ動物園では、群れに戻すのをスムーズにするために人工哺育の担当者は原則1人にし、できるだけ接触する人を限定しています。
そして、他のサルを見たり、声を聞く、においをかぐといった動物らしい時間を一番大切にします。
そして、今まさに人工哺育中のハヌマンラングール・サトは今、姉のタラと一緒にくらす練習中です。
赤ちゃんとの接し方を知らないタラはサトにびびりまくりで、なかなか触れ合うことがありません。
はじめはわたしが抱いたサトを見せてならしていき、サトが活発になった今は自由に動き回らせて「2頭でいるのが当たり前」な状態をめざしています。
2頭の距離はゆっくりゆっくり近づいているようですが、仲良く遊ぶ姿を見るにはまだまだ時間がかかりそうです。
2頭が向き合う時間を大切にしたいところなので、ガラスを叩いてびっくりさせるのはご遠慮くださいね。
こどもたちの成長と代理母の奮闘をあたたかく見守ってください!
そして子育て真っ最中のお母さん方、一緒に頑張りましょう!
担当:かわで