炭都・宇部の歴史を今に伝える、日本初の石炭記念館
石炭記念館ブログ
最近のエントリー
- 石炭記念館 見どころ紹介!⑧ 「宇部炭田の発明品[その4]~改良ツルハシ~ 」(06/04)
- 屋外展示場にある「人車」がこのたび修復されました!(05/13)
- この度、市制施行100周年記念式典において当館にゆかりのある方々が市政功労者として表彰されました(11/02)
- 石炭記念館 見どころ紹介!⑦ 「宇部炭田の発明品[その3]~牛蒡木固~ 」(06/20)
- モデル坑道完成50周年!(10/30)
- 石炭記念館 見どころ紹介!⑥ 「宇部炭田の発明品[その2]~蒸枠~ 」(06/12)
- 石炭記念館 見どころ紹介!⑤ 「宇部炭田の発明品[その1]~南蛮車~ 」(05/16)
- 石炭記念館 見どころ紹介!④「木下幸吉さんと炭鉱(ヤマ)の歌」(05/08)
- 石炭記念館 見どころ紹介!③「モデル坑道」(05/01)
- 石炭記念館 見どころ紹介!②「展望台[その2]~ 展望デッキ編 ~」(04/24)
年別一覧
石炭記念館 見どころ紹介!④「木下幸吉さんと炭鉱(ヤマ)の歌」
今回は、見どころ紹介というかたちでご登場いただくのは大変失礼ですが、当館の炭鉱の語り部ボランティアを務めてくださっている木下幸吉(きのした こうきち)さんについてご紹介したいと思います。
木下さんは昭和5年(1930年)生まれの御年90歳。
幼少期から宇部で育ち、工業学校を卒業後、宇部の主要炭鉱の1つであった東見初炭鉱で機械や電気を担当する坑内機電係員として就職。その後、東見初炭鉱と沖ノ山炭鉱の合併にともない沖ノ山炭鉱に転勤し、宇部の炭鉱を伝える遺産の1つとして現在、保存されている「沖ノ山電車竪坑櫓」が建てられる際には、建設班の一員として工事に携わるなど、21年間炭鉱で働いてきました。
石炭記念館の炭鉱の語り部ボランティアを始めたのは6年ほど前から。週1回、毎週月曜日に来館される皆さんへガイドなどをしていただいています。また、その活動はこれまでに新聞や雑誌、テレビなどにも取り上げられて、木下さんを目当てにお越しになられる方もいらっしゃいます。
そしてなんと、漫画に登場したことも。(※この漫画については過去のブログでもご紹介しています。)
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
■石炭記念館ブログ(2018年3月24日掲載)
「能田達規先生の連載『ぺろり!スタグル旅』に石炭記念館が登場しました!」
https://www.tokiwapark.jp/sekitan/blog/post_5.html
■石炭記念館ブログ(2018年8月1日掲載)
「能田達規先生の漫画『ぺろり!スタグル旅』第3巻が発売されました!!」
https://www.tokiwapark.jp/sekitan/blog/3.html
木下さんのその確かな記憶力と経験に基づいた解説は、宇部炭田が閉山して久しい現在、当時を知らない私たちにリアルな炭鉱の世界、炭鉱の暮らしぶりを伝えてくれます。
館内の模型「炭鉱のようす」について解説する木下さん
ここで、もう1つご紹介しておきたいのが、歌人としての木下さん。
現在でも精力的に作歌に励むほか、宇部短歌協会の副会長を務め、おやこ短歌教室にてボランティアで指導にあたるなど、後進の育成にも尽力されています。
(※地方紙である宇部日報の文芸面でお名前を見たことがある方もいるかと思います。)
木下さんが短歌を始めるようになったのは、まだ炭鉱で働き始めて間もない頃、技術書を求めて訪れた古本屋で石川啄木の歌集に出合ったことがきっかけでした。
そして、短歌に魅了された木下さんが炭鉱で働きながら、自身の職場をモチーフに詠んだものが「炭鉱(ヤマ)の歌」です。
これらの短歌は平成8年(1996年)に木下さんが自費出版された歌集『炭鑛の日々』にまとめられています。
木下さんの炭鉱(ヤマ)の歌には、自身が働く仕事場の様子や心情が写実的に詠まれ、坑内の緊迫した場面や炭鉱の暮らしでの悲喜こもごもなど、炭鉱に身を置いたものでないと詠めないものばかりです。
また、炭鉱で使われた道具や機械も登場し、それらがどのような役割を果たしていたのかがわかりやすく表現されています。
そこで一昨年から、展示をみるだけではわからない情景や機械の迫力が伝わればと、この炭鉱(ヤマ)の歌や、石炭記念館にまつわる短歌27首を展示物とあわせて掲示しています。
そのうちのいくつかをご紹介したいと思います。
書写部屋(ささべや)の真上を通ひてゐる船かスクリューの音坑底にひびく
書写部屋(ささべや)とは坑内に設けられた事務所のことで、現場の最前線となる基地です。公休日で人もいない静かな坑内の書写部屋で1人で作業していると、海の上を走る船のエンジン音やスクリューの音が聞こえることがあったそうです。宇部は海底炭田として知られていた地域で、しんと静まり返ったなかで普段では聞くはずのない音がするというのは不思議な体験でもあり、また、自分が今置かれている状況を再認識させてもくれるでしょう。海底のさらに奥底に眠る石炭を採掘していた宇部の炭鉱のようすが伝わってきます。
甘酸っぱき林檎の香り漂ひて昼餉の切羽に石炭(すみ)弾く音
ある日の昼食時間に作業現場の片隅で休んでいると、突然「バシッ」という炭壁が裂ける音がして、ひやっとしたことがあったといいます。長い間、坑内で働いていると慣れが生じて、いつしか恐怖心が薄らいでいくそうです。しかし、実際には地中の奥深くで落盤などの危険と隣り合わせで作業しているわけで、それを何かの拍子にをふっと思い出す、そんな情景が詠まれています。また、お弁当に入っているであろう林檎の香りという嗅覚と、炭壁が裂ける音という聴覚とが対比されていて、妙に生々しく感じます。
かたはらに母の眠れる遅き夜は茶漬けの音も気がねして食ふ
炭鉱は1日8時間の三交代制で、一番方、二番方、三番方がありました。木下さんが深夜、二番方で仕事を終えて帰宅すると、そんなときは社宅で一緒に暮らしている母親が夜食としてお茶漬けの準備をしてくれていたそうです。しかし、炭鉱の社宅というのは6畳と4畳半の二間の長屋で部屋の仕切りも薄く、狭い空間で家族が体を寄せ合って生活していました。となりで寝ている母親を起こしてはいけないと、食べる音さえも気にしながら食事をする。この歌をよむと、炭鉱を生業としている人たちやその家族の暮らしや心情が垣間見えてくるようです。
以上、3首だけあげてみましたが、これらの「炭鉱の歌」と展示をあわせて見ていただくことで、より坑内の雰囲気や炭鉱マンの息遣いまで感じることができるのではないでしょうか。
また、あくまでブログ担当者の視点を交えてこの3首の短歌を解説させてもらいましたが、読む人それぞれで違った印象や見方もできると思います。
ぜひ、館内の展示を見る際には、この短歌のパネルもあわせて読みながら巡ってみてはいかがでしょうか!